借金問題を解消するための最後の手段として知られているのが「債務整理」です。一定のルールに則って、借金返済の負担を軽減することで、債務者の生活を守ることができます。その債務整理ですが、大きく分けると「任意整理」「個人再生」「自己破産」があり、任意整理はその中でも手軽なイメージがあります。
しかし、今までに任意整理を経験してきた債務者（元債務者）の中には、任意整理をしても十分に状況を改善できなかったという人もいます。債務整理をしながらも状況を改善できなかった、それはなぜなのでしょうか？
そこで今回は、任意整理の仕組みや流れなどを解説し、債務整理できちんと返済状況を改善するための知識を身に着けてもらいたいと思います。
Contents
■任意整理とは？
まず、任意整理の基本的な仕組みについて解説します。
任意整理とは、裁判所を介さずに債権者との直接交渉によって借金返済の負担を減らす方法です。非裁判の債務整理なので、交渉内容は債権者・債務者相違の合意があればよほどの内容でなければ成立します。裁判所が関わらないので面倒な手続きがない上に、裁判に関連した費用もかからないので、費用面においても手軽です。
任意整理では、基本的に「将来利息のカット」や「返済計画の見直し」、存在すれば「過払い金の元本充当」を行うことが一般的です。既に過払い金問題は多くの人が解決していると思われますので、基本的に将来利息のカット返済計画の見直しを中心に交渉することになるかと思います。
メリットとしては、前述の裁判関連のメリット以外にも「交渉する債権を選べる」という点が挙げられます。世の中には、複数の債権者からお金を借りている人もいます。個人再生や自己破産の場合、基本的に自身が抱える全ての借金がその対象となり、保証人に迷惑がかかったり財産を手放さなければならなくなる可能性があります。しかし、任意整理の場合は交渉する債権者を選ぶことができ、任意整理（交渉）する借金とそのままにしておく借金を選択できるのです。これにより、保証人がいる借金や、住宅ローンなどのように財産に悪影響を及ぼす借金を除外できます。
■任意整理の流れ
次に、任意整理がどのような流れで行われるのかについて解説します。今回は、弁護士や司法書士に依頼した場合のおおまかな流れについて解説します。
専門家に依頼した後は、第一に「受任通知」が発送されます。これは、借金問題について依頼を承諾したという旨を債権者に通知するものであり、形式的なものだけではなく、外套の債権者からの債務者への直接の取り立てなどの接触が禁止されます。
次に、専門家が債権者に対して取引履歴の開示請求を行います。取得した取引履歴を用いて「引き直し計算」を行い、過去の取引において未精算の「過払い金」が発生していないかどうか確認します。もし過払い金が存在すれば、それを理由に減額交渉を有利に進めることができます。
引き直し計算等の交渉の準備が整ったら、いよいよ債権者との本格的な交渉が開始されます。和解に至れば、その内容に従って以降の返済を開始することになります。自分で任意整理を行うこともできますが、その場合は受任通知がないので取り立ても継続されますし、交渉の準備から交渉まで手間がかかることになります。
■任意整理で後悔する理由①「負担減が不十分」
では、そんな任意整理を実行して後悔する理由とは何なのでしょうか？
考えられる理由としては「十分な負担軽減ができなかった」ということが挙げられます。任意整理は最も手軽なイメージがありますが、借金を減額し、返済の負担を軽減できる効果も最も軽いと言えます。合意内容は債権者と債務者の双方が合意すればどのような内容でも問題ありませんが、あまりにも債務者有利の内容で交渉すれば、それに応じない債権者も少なくありません。
基本的に、過払い金があればそれを原資に減額に応じる債権者が多いのですが、過払い金問題が提起されてから既に10年ほど経過し、多くの過払い金問題が解決済みです。完済後10年の時効と、法改正以降のグレーゾーン金利の撤廃により、現時点で過払い金が存在する債務者はほとんどいないと言えます。そのため、交渉内容は「将来利息のカット」と「返済計画の見直し」が中心になります。
将来利息のカットは、借金返済において支払うことになる利息を、今後の返済ではカットして元本の返済のみを行うという内容です。多くの任意整理の事案において選択される内容で、利息の支払いが無くなる分、毎月の支払いと最終的な支払総額を減らすことができます。
返済計画の見直しは、現状の毎月の支払額を少なくして返済を継続するという内容です。毎月の負担が削減されることにより、無理なく返済を継続できます。また、仕事の影響などで収入が減少した人でも、返済計画を見直すことで元本に影響をおよぼすこと無く返済を継続できる可能性があります。
これらの内容に共通することとして「元本は減額されない」ということが挙げられます。交渉内容によっては元本を減額して返済を継続できる可能性もありますが、元本が減額できるように交渉するにはある程度の条件が必要になります。例えば「◯割を一括で支払う」といったように、ある程度まとまった返済が見込める場合です。任意整理を考えるほどの現状であるため、一括という確実に回収できるお金があることで、債権者も減額交渉に応じやすいのです。
しかし、そうした事情がない場合だと、任意整理で借金減額の内容を含んだ交渉をすることは難しいです。利息の支払いや、返済計画の見直しによる毎月の負担減少は見込めますが、収入や貯蓄などの債務者の事情によってはそれだけでは不十分である可能性があるのです。
■任意整理で後悔する理由②「交渉の失敗」
次に考えられるのは、そもそも交渉自体に失敗するというケースです。任意整理は裁判外の個人的な交渉に過ぎません。自由度が高く、手続きの煩雑さが無い代わりに、期待通りの結果が得られるかどうかは交渉次第ということになります。
特に問題なのは、任意整理を専門家に依頼せず、自分で交渉に臨む場合です。規定や書式が無いという点において個人で行っても差し支えないイメージがありますが、交渉相手が歴戦の金融機関の担当者であるという点を無視してはいけません。何の準備もなしに強敵に挑んで、完全勝利をもぎ取ることなんて不可能に近いのです。
まともな準備もせずに任意整理の交渉に臨んでも、期待したとおりの結果を勝ち取れるとは限りません。仮に合意に至ったとしても、当初期待していたとおりの内容で合意できているとは限りません。不十分な結果で合意しても、その後の返済において再び問題が生じる可能性が高いのです。
■任意整理で後悔する理由③「報酬が高くついた」
もう一つ挙げるとすれば、任意整理を弁護士や司法書士に依頼して、その費用が高くついたという場合です。専門家の力を借りる以上は、相応の報酬が必要になります。どこの専門家に依頼したかによって費用は異なりますが、場合によっては任意整理の結果得られたプラスの効果よりも、支払った費用のほうが高くなる可能性も考えられます。
■任意整理で後悔する理由④「過払い金だけでは完済できず、ブラック扱いになった」
他にも「過払い金返還請求」に関する失敗も考えられます。特に、専門家に依頼せず自分で交渉する場合に起き得る失敗です。返済中の借金に過払い金が存在する場合、返還請求でお金を払ってもらう代わりにその借金の元本に充当することができます。そして、過払い金で元本を全額充当できた場合（過払い金が残債よりも多かった場合）であれば、ブラックリストに載らずに済むのです。
しかし、過払い金が残債よりも少なく、これにより減額できても借金がまだ残る場合は別です。この場合は通常の債務整理と同じ扱いになるので、ブラックリスト扱いになります。「過払い金返還請求ならブラックにならない！」と思って交渉に臨んだら、思いのほか過払い金が無い場合だと予想に反してブラック扱いになってしまい、5年間は新規融資を受けられなくなってしまいます。
■任意整理で失敗しないためには？
では、任意整理は不完全な債務整理なのかと言えば、そうではありません。任意整理には前述の通りさまざまなメリットがあります。任意整理で失敗するのは、デメリットの部分を十分に見ておらず、そのリスクを理解しないまま交渉に臨んだ場合がほとんどです。
任意整理で失敗・後悔しないためのコツは、第一に「自分の借金が任意整理で解決できるかどうか」ということを正確に把握することです。借金の総額と毎月の返済額、それを返済するための自身の収入など、借金返済に関わる全てのデータをもとにして判断する必要があります。その上で、任意整理で十分に負担を軽減し、完済に向かうことができると判断すれば、任意整理に臨みましょう。
第二に「専門家の力を借りる」ということです。任意整理は交渉次第で結果が大きく変わります。返済の負担を大幅に削減できることもあれば、逆にほとんど変わらない状態で交渉が終わってしまうこともあります。この点は、歴戦の交渉上手に対してこちらも交渉のプロをあてがうことが必要になります。
専門家に依頼することで、そのための費用も必要になります。しかし、良い条件で任意整理を和解に至らせることができ、なおかつそもそも任意整理で解決できる問題であるかという判断においても力を発揮してくれます。
専門家の判断次第では、任意整理ではなく別の方法で借金問題を解消すべきであるという結論に至ることもあります。個人再生や自己破産でないと解決できない場合や、逆に引直計算で過払い金の存在が明らかになればブラックリストに載ることなく借金を一括で完済できる可能性もあります。
■最後に・・・
任意整理で失敗しないためには、冷静に状況を分析し、任意整理という選択肢が本当に正しいのかどうかを判断することが重要です。その判断のためには、専門家の力を借りることも重要です。依頼するかどうかは別として、まずは無料相談を利用することをお勧めします。
任意整理は債務整理の中でも最も軽めの印象がありますが、債務整理であるということには違いありません。ブラック扱いになり、数年間は新規融資を受けられなくなりますが、この状態は時間の経過で解消されます。しかし、人によっては「債務整理をした」ということを人生の汚点として一生引きずることになると考える人もいます。
その点は、もはや考え方の問題であると言えます。確かに債務整理すること無く完済できる方が健全ではありますが、借金を取り巻く環境は常に変化し続けており、当初の予想に反する出来事が発生することは否定できません。債務整理を恐れて借金苦を続けても、健全な人生であるとは言い難いのです。
