ここまで、債務整理の種類や相談先について紹介してきました。ただ、この記事を読んで頂いている方の多くは、債務整理の中でも特に「自己破産するかどうか」悩まれる程の借金総額の方や状況の方が多いかと思います。今まで紹介してきたように、自己破産は、債務整理の中で最も強力な手段です。しかし、債務整理=自己破産だと思っている方も多く、自己破産した方の中には「本当に自己破産しかなかったのだろうか」と思うケースもあります。もちろん、本人が納得した選択なのであれば、結果しか見ていない私のような外野がとやかく言うことではないでしょう。
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債務整理はゴールなのか?
ただ、ここで今一度考えて頂きたいのは、どういう形であれ「債務整理」が出来たとしても、それはゴールではありません。
債務整理をしたことで、そのまま安定した生活が手に入るわけではありません。未来の自分の生活のために、まずは直近の課題となっている要素の整理を行っているのです。確かに、債務整理には相応のパワーが必要ですが、その大変さからいつしか債務整理そのものが目的になりがちです。そのような場合、債務整理が成功しても、再度同様の状況になります。
過去に債務整理を行なっているため、状況としては最初に債務整理を行ったときより厳しい状況になっているということです。
それらを踏まえて、今一度「自己破産」についてより詳しく紹介していきたいと思います。
自己破産のメリット
ここでおさらいも含めてメリットを一つ一つ見ていきましょう。
・債務の全額免除
この「全額」というのが、債務整理の中でも最も強力な手段と言われる所以です。
自己破産が完了した後は、債務によるマイナスは関係なくなり、純粋な毎月の収支をやりくりすればいいわけです。
・債権者の強制執行が出来なくなる
債務の返済が滞っているため、強制執行(給与差押さえ等)が予告されている、もしくは既に差押さえがされている場合、申し立てにより強制執行を中止することが出来ます。
但し、既に給与差押さえが行われている場合、強制執行は中止にはなりますが、すぐに給与の全額がもらえるかは状況に応じて異なります。デメリットの項で後述する「同時廃止」=「一定額以上の財産がない」場合、自己破産手続き中(=免責が確定するまで)の給与を全額受け取ることが出来ません。
なお、この強制執行の中止申し立ては個人再生や特定調停でも可能です。但し、特定調停の場合には、調停が成立しないと再度を行うことができる他、調停成立後に返済が滞ってしまった場合にも、もう一度強制執行を行うことが出来ます。また、裁判所を介さない任意整理では、そもそも強制執行停止の申し立てが出来ません。つまり、給与差押さえに頭を悩ませている方でも、自己破産だけが手ではないということです。
自己破産のデメリット
これもおさらいですが、非常に強力なメリットがあるために、デメリット=制限も多いのが自己破産です。
・信用情報の「ブラックリスト化」
これは以前も紹介したとおり、実際にそういったリストがあるわけではありませんが、破産成立後、新規借入れ・ローン・クレジットカードなど信用情報を調査する際に、債務整理を行った履歴が残ります。そのため、5~10年間程度ローンの審査などが非常に通りにくくなります。
ただ、基本的には3ヶ月以上の滞納で「事故」扱いとなり、ブラックリスト化されます。既にこの「事故状態」になっている方が多いと思われます。なお、これらが正常に戻るのは、「完済」から5~10年程度ですので、自己破産を行うことでこの5~10年の「スタートライン」に立てたと考えることも出来ます。また、せっかく債務整理が出来たのですから、住宅ローンや自動車ローンは生活に必要なものは別としても、生活資金の新規借入れは避けたいものです。
・財産の制限
99万円を超える現金や20万円を超える預貯金、その他不動産、退職金、保険等、一定額以上の資産は没収されます。
※資産と見なされる基準は裁判所によって異なります。
具体的な流れとしては、破産管財人がつき、資産の管理・調査・評価・換金を行います。
また、債権者へ配当も行うため、期間的には長期に及びます。
この破産管財人が選任されるものを「管財事件」と言います。
なお、この管財事件として破産管財人が選任された場合、手続きの迅速化・債務者の逃亡防止・財産の隠蔽防止などのため、住所の移転、長期間の旅行には裁判所の許可が必要となります。
また、破産管財人は債務者への郵便物の閲覧、管理されます。
一方、最初から上記のような資産がないことが明らかな場合、「同時廃止」と言って管財事件よりも短期間で手続きを行うことが出来ます。
・官報への掲載
これも前回記載した通りで、氏名・住所などが記載されます。
一部の人間しか見ていないものですので、官報によって周りに自己破産がバレてしまうケースは少ないかもしれません。
ただ、闇金の勧誘リストに使われているという噂や、SNS全盛の昨今では個人の情報も思わぬ形で調べられることがあります。
なお、官報への記載は、自己破産の他、個人再生でも行われます。
・職業の制限
弁護士や司法書士、行政書士や宅地建物取引士などいわゆる「士業」に就くことができなくなりますが、免責後に復権できるケースがほとんどです。
破産申請中に制限を受ける、というイメージですね。
他に身近な職業では、警備員や建築業なども該当する場合があります。
対象の職業は意外と多岐に渡るため、気になる方は一度確認して見たほうがいいかもしれません。
・破産者名簿への記載
破産手続きを開始した後、免責許可が降りなかった場合のみ、破産者の市区町村役場が管理する破産者名簿に記載されることになります。
破産申請が成立した場合=免責許可が下りた場合は記載されません。
なお、破産者名簿は第三者が確認できるようなものではないため、官報とは性質が異なります。
・連帯保証人への影響
連帯保証人をつけている場合に限っての話ですが、債務者が自己破産をした場合、債務は連帯保証人に移行します。元々連帯保証人というのは、債務者に返済能力がなくなった場合のために債務を連帯して負うものです。自己破産を行ったことで、債務者に返済能力がないことに裁判所が「お墨付き」を出したわけですので、連帯保証人に債務が移るのは当然の流れと言えます。では、連帯保証人をつけている場合に自己破産を行うことはないかというと、そうでもありません。
連帯保証人をつけて自己破産を行うケースとしては、債務者及び連帯保証人も自己破産を行う場合があります。とは言え、当然その場合は債務者と連帯保証人それぞれの状況を踏まえて、双方自己破産を行うのがベストな選択かどうかをしっかりと考えることが必要なのは言うまでもありません。
・自己破産成立後 7年間は自己破産不可
自己破産の免責許可が下りてから、7年間は自己破産の申し立てを行っても免責許可はおりません。
これが冒頭の「一度債務整理した後、苦境に陥った場合はさらに厳しくなる」と紹介した一例です。
自己破産した方がよい場合
以前、ケース紹介のところでも少し触れましたが、改めて他の債務整理の方法と比較しながら自己破産した方がよい場合を紹介します。なお、何度も書いているとおり、何がベストかはよく吟味し、専門家への相談も交えながら決めてもらいたいと思いますが、ここでは、特に自己破産が適している要素をあげていきます。
・返済の目処が立たない
返済の目処がつかない程の借金総額であることや、収入の見込みがないケースでは、自己破産以外の方法が使いにくくなります。
・ギャンブルや浪費による借金
ギャンブルや浪費による借金の場合、個人再生は使えません。上記の金額状況と合わせて、借金の原因がギャンブルや浪費の場合は、自己破産以外の選択肢が上がりにくくなります。
自己破産をしない方がいい場合
逆に自己破産をしない方がいい場合にも触れておきましょう。
・金額的に目途が立つ場合
先程の逆ですが、まずは金額です。返済の目途がつきそうな額、または少し減額する事ができれば目途がつきそうと言った金額の場合、自己破産がベストな選択である可能性は低いと言えます。
・低い金利で借りられる融資先が残っている場合
意外と多いのは、自己破産について真剣に悩んでいる真面目な人ほど、親族や信頼のおける友人などに相談していなかったりします。もちろん、ご親族の方に頼んでも状況的に難しい場合や、友人にお願いしても信用を失うケースもあるかもしれません。しかし、自己破産は最も強力な手段上、制限が多い、すなわちそれは「最後の手段」に他ありません。
自己破産以外にも道があることを知ろう
自己破産以外の道を今一度列挙していきます。
[債務整理を行わない場合]
・親族や友人知人、その他各団体の融資などを経て、利率の高い債務を圧縮する。
例えば、利子もつかず、ある程度待ってくれる条件に変えるだけでも相当変わってきます。
[債務整理を行う場合]
・任意整理
・特別調停
・個人再生
債務整理の選択ともう一つの大切なこと
債務整理をどうするか、自己破産が本当に適しているかという選択の他に、もう一つとても大切なことがあります。特に、自己破産の場合は、これが疎かになりやすいため、今回の自己破産のところで紹介したいと思います。それは、「どうやりくりしていくか」という点です。
自己破産の場合は、債務が全額免除となってしまうため、他の債務整理と違い、「やりくりを工夫しながら返していく」ということがありません。そのため、自己破産が成立した後も本人の思考が変わることがなく、再度同様の苦境に陥ることも少なくありません。自己破産を行う場合こそ、より一層この「やりくり」を意識しなければならないのです。「何を今さら」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、もしあなたが債務整理で悩んでいる方であれば、ぜひ一緒に考えてほしいと思います。
節約だけではやりくりは成立しません。どんなに節約しても物理的な限界はあります。もちろん、節約も大事なのですが、チリがいくら積もろうとも、山になる前に積もったチリがなくなってしまっていては意味がありません。
意識して欲しいのは、「いくらあれば毎月生活を回すことが出来るか」ということです。そこに収入が追いついていないのであれば、出る方を締める「節約」だけでなく、入る方を増やす「稼ぐ力」を増やすこともしなくてはなりません。もちろん、既に共働きや昼夜ダブルワークという方も多いと思います。それはそれで非常にハードだと思いますので、それ以上何かやらなくてはならないという話ではありません。ここで考えてほしいのは、時間や体力には限りがあるということです。その中で、今のあなたの労働の時間単価はあなたが必要な額に対して妥当なのでしょうか。
それに対して、もしあなたが「それ以外に仕事が見つからない」というのであれば、将来的に希望の仕事につけるように自身の価値・スキルを上げていくことが必要です。
最後に・・・
今回は、債務整理で悩んでいる方の多くが頭によぎっているであろう「自己破産」について、おさらいも兼ねながらより詳しく紹介してきました。自己破産は、債務整理の中でも全額免除という最も強力な手段です。そのため、制限も非常に多岐に渡り、大きな拘束力を持ったものばかりです。さらには、その全額免除という特徴からか、再度お金のやりくりが立ち行かなくなる方が最も多いのもこの自己破産です。
自己破産が最も適切な方ももちろんいらっしゃいますが、自己破産は最後の手段です。専門家への相談も視野に入れながら、最適な方法、納得のいく選択を選んでもらえたらと思います。この記事が皆さんの悩みに少しでもお役にたてれば幸いです。