このシリーズでは、借金に悩む皆さんの助けになればと債務整理の種類や、相談先を紹介しています。今回は、以前少し触れた奨学金について、より詳しく見ていきたいと思います。
ほとんどの家庭が共働きとなっていることからもわかるように、学生の子どもを持つ親の年収は一昔前から比べると確実に下がっています。それでも、大学の学費は下がっておらず、さらに大学の進学率も増加しています。少子化の影響で、各大学の学生争奪戦が熾烈化しているものの、学費を優遇することは自学の経営を圧迫するためなかなか踏み切れません。
現在、学生の2.6人に1人、実に38%もの学生が奨学金を利用しています。※平成29年3月 独立行政法人日本学生支援機構発表。平成27年度実績。
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奨学金とは
ほとんどの方が聞いたことがあると思われる「奨学金」ですが、利用している方でも意外と詳しいところまでは知らないというケースもあります。ずは奨学金について簡単に紹介したいと思います。奨学金は、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が運営しています。奨学金には「給付型」と「貸与型」があります。どちらも審査がありますが、給付型の方がより厳しい審査があります。給付型の方はその名の通り、給付ですので返済の必要がありません。今回の話のテーマとなるのは、もう一つの「貸与型」の方となります。
貸与型奨学金の種類
貸与型奨学金には「第一種」と呼ばれる無利息のタイプと、「第二種」と呼ばれる利息が付くタイプがあります。当然、第一種の方が審査は厳しく、成績優秀であることも条件に加えられます。さらに第一種と同様の学力基準で、かつ世帯収入条件によって第一種・第二種併用ということも可能です。
奨学金と教育ローンの違い
先程の貸与型の奨学金が、借金となるわけですが、進学目的でお金を借りる場合、教育ローンを検討している方や実際に教育ローンを利用している方も多いと思います。ここでは、奨学金と教育ローンの違いについても触れておきます。一番の違いは、「借り手が誰か」ということです。奨学金の場合は、借り手=学生自身です。それに対して、教育ローンの場合は、借り手=学生の親です。
また、教育ローンは、銀行や信用金庫から借りるため、利率が奨学金より高くなります。具体的には、奨学金の利率は、返済方式等で幅がありますが、概ね1%前後です。それに対して、教育ローンの場合、国の教育ローンである教育一般貸付を扱っている日本政策金融公庫で1.8%、その他の銀行・信用金庫で3~4%程度です。奨学金の審査が通るのであれば、奨学金を利用した方が低利率であると言えますが、「本人の卒業後に借金を負わせたくない」という気持ちや金額的な面から、最近は双方を組み合わせて利用するケースもあります。
奨学金を延滞してしまったら…
さて、少し制度の説明が長くなりましたが、いよいよここから返済に困った場合の話に移っていきます。この記事を読んで頂いている方で、これから奨学金を返す方、今返還中の方のほとんどは、返済期日の翌日から延滞金が発生します。※ 第一種(無利息)の場合、平成17年以降採用の方。第二種(利息付き)の場合は、平成10年3月末以降に貸与終了の方。
また、延滞が発生すると、保証人や連帯保証人へ請求書が送付されます。さらに、個人信用情報機関への個人情報・個人信用情報の登録が行われます。この「登録」が最も避けなければならないことです。
個人情報・個人信用情報の登録とは?
個人情報・個人信用情報の登録とは、実際どういうことなのでしょうか?具体的には、以下の事が登録されます。
・個人情報:氏名、住所、生年月日、電話番号、勤務先等
・契約情報:貸与額、最終返済期日
・その他:返還状況(延滞、代位弁済、完済等)
※代位弁済:保証会社や債権回収会社が債権を買取り(=代わりに払い)、回収する権利が保証会社や債権回収会社に移ること
登録されるとどんな影響が?
クレジットカードの発行や、自動車及び住宅ローン、銀行や消費者金融等、いわゆるお金を貸すことに関わることは、全てその会社が「この人に貸しても大丈夫だろうか、ちゃんと返せるのか」と審査を行います。その審査の際に情報を照会するのが、この個人信用情報機関です。「借金は出来る限りしない」という信条の方も、クレジットカードを持つ方は多いと思います。また、自動車や住宅を全額即金で支払う方はかなり一部の方だけではないでしょうか。
情報が登録される期間は?
こうした登録はなんとか避けたいところですが、実際にはどのくらい延滞したら登録されるのでしょうか。期間としては、3ヶ月延滞すると登録されます。なお、返還開始6ヶ月以上経過というのも条件になるので、返還開始直後から滞ってしまった方は登録されるまでやや猶予がありますので、その間に延滞を解消してしまえれば理想ですね。また、一度登録されると、完済後5年間、情報は消えません。もの凄くシビアな印象を受けるかも知れませんが、一般的な借金も大きく変わりません。むしろ、JASSOの場合、登録条件や登録内容、さらに登録情報削除の期間等をしっかりとホームページに明記していますので、非常に良心的とさえ感じます。なお、この「登録」を一般的には「ブラックリスト」化と言います。ブラックリストは、実際にそういったリストがあるわけではなく、こうして信用機関に情報が登録されることを指しています。
余談ですが、最近では、携帯電話料金の延滞もこの登録に関係する場合があります。月々の利用料金はクレジットカード払いにしていない限り特に信用情報と関係ないのですが、本体代金を割賦払いにしている場合、信販会社を通して分割払いを組んでいるケースがあります。こうなると、月々の携帯電話を払わなかったことで、本体の代金の返済も一緒に届こってしまい、「事故」登録されてしまうことがありますので、こちらも注意が必要です。
返済が難しい場合
返済が難しくなってきたら、可能な限り早く動くことが大切です。いくつか方法はありますが、期日を過ぎてしまうと延滞を解消してから出ないと願出出来ません。延滞金も発生してしまうため、早めに必要な書類等を揃えて、願出を行いたいものですね。返済が難しい場合、「弦楽返還制度」「返還期限猶予制度」「返還免除制度」の3つがあります。
減額返還制度とは
災害・傷病、その他経済的理由により奨学金の返済が困難な場合で、かつ月々の返還額を減額することで返還が可能な場合は、減額返還制度という制度が設けられています。但し、総額が減るわけではなく、月々の返還額を抑える一方で返済期間が延長されます。また、こちらも審査があるため、一定の要件を満たす必要があります。一回の願出につき適用期間は12ヶ月で最長15年(180ヶ月)まで延長可能です。なお、減額返還制度は、延滞中の場合は先に延滞を解消しないと願出出来ません。経済的な事由の要件は以下の通りです。
・経済的事由:目安として、年間収入金額300万円以下(給与以外の所得を含む場合、年間所得金額200万円以下)。
本人の被扶養者について、1人につき38万円を収入・所得金額から控除。
減額返還適用者は一律25万円を収入・所得金額から控除。
※平成26年4月から基準が緩和されました。
その他、減額返還制度の対象となるのは、月賦返還のみ、口座振替(リレー口座)など、他の条件もあるので、願出を検討している方はぜひ一度JASSOのホームページを確認してもらえればと思います(動画でも紹介しています)。
返還期限猶予制度とは
もう一つは、返還期限猶予という制度があります。こちらは、一定期間返還を待って欲しいというものです。そのため、こちらも総額が減るようなものではありません。適用期間は通算10年(120ヶ月)が限度ですが、災害、傷病、生活保護受給中等では、10年の制限がありません。一時的に返還の猶予をお願いするものですので、傷病や災害の他に、失業中や経済困難、産前休業・産後休業および育児休業、海外居住など理由は多岐に渡ります。
既に延滞している方も申請することが出来るようになりましたが、基本的には早い段階での提出がよいでしょう。流れとしては、事由に沿った申請書を提出する形となり、フォーマットはJASSOのホームページからダウンロードすることも可能です。先の減額返還制度より基準は厳しくなく、事由も多岐に認められていますが、審査は必要です。また、審査中の返還予定や延滞時の延滞金加算や催促は止まりません。こちらも申請する場合は、JASSOのホームページ等をよく確認した上で利用されることをお勧めします。
返還免除制度とは
返還免除の制度も設けられていますが、これは死亡又は精神若しくは身体の障害によるものです。なお、この場合も願出が必要となります。また、以前は、大学院の第一種奨学生や大学学部・短期大学・高等専門学校の1年次に入学し、第一種奨学生になった方を対象に「返還特別免除制度」という制度がありましたが、大学院は平成15年度まで、後者は平成9年度まででそれぞれ廃止となっています。
最後に・・・
少子化が進んでいるものの、大学費用は下がっていません。その一方で平均年収は下がっており、子どもがいる家庭では共働きが当たり前になりつつあります。その中で奨学金を利用している人は増えており、これから利用を検討する人はどんどん増えてくる見込みです。奨学金制度は、他のローン等に比べ金利が優遇されています。その他、返還が難しくなった場合の措置も充実しています。但し、これは紛れもない借金であり、返還が滞った場合、信用情報が傷つきクレジットカードや自動車・住宅ローン等人生設計に影響を及ぼす可能性があります。
返還が難しそうになったら、減額返還制度や返還期限猶予などの出来る限り早く手続きを行うこと。もし、既に延滞が発生しているのであれば、こちらも出来るだけ早く何かしらの手を打って調整したいですね。既に何年も延滞しているのであれば、このシリーズで紹介している債務整理の話になります。そこで解決方法が決まり、完済後5年経てば信用機関の登録情報は消すことが出来ます。
上手く奨学金を活用して、返還もスムーズにいけば何よりですね。奨学金を利用している方、検討している方に少しでも参考になれば幸いです。