一昔前から、電車広告やテレビCMで頻繁に「過払い金~」とか「~が戻ってくる」といった謳い文句を目にし、耳にしていたものです。お金を借りる側からすれば、件の「過払い金」は大きな利益に繋がることもありえます。
しかし、過払い金はいつまでも利益となり続けるわけではありません。もたもたしていると、何十万円、何百万円というお金を手に入れるチャンスを逃してしまう可能性も考えられます。そこで、グレーゾーン金利に基いて発生した「過払い金の時効」について解説します。
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■そもそも「過払い金」や「グレーゾーン金利」とは何か?
まず最初に、この記事の重要キーワードである「過払い金」について解説します。過払い金とは、簡単に言えば「払い過ぎたお金」のことです。多くの広告では、借金に関連したキーワードでこれを説明しているので、借金をしたことがある人に関係するのだろうということは多くの人が共通の認識とするところです。
では、借金返済において払い過ぎたお金とは何のことなのでしょうか。ここで関係するのが「グレーゾーン金利」です。以前は、消費者金融からの借金の多くが、このグレーゾーン金利によってお金を貸していたのですが、この部分に該当する金額は返還しなければならないとされてたのです。
お金の貸し借りで関係する「金利」つまり貸したお金を年何%の利息で返済しなければならないというルールに関して、法律では2種類の数値が設定されていました。一つは「利息制限法」で、もう一つは「出資法」です。両者とも利息の上限を規定しているのですが、出資法のほうが高い上限を設定しています。多くの消費者金融は、出資法が定める高めの金利を上限としていました。
ですが、裁判によって利息制限法を上限としなければならないと決まり、それを超える部分の金利で支払った利息については債務者に返還しなければならないと決まりました。当然ながら出資法を超える金利は完全に違法なのでブラック、利息制限法内であれば真っ当なのでホワイト、なのでその中間に相当する金利のことを「グレーゾーン金利」と呼ぶようになったのです。
過払い金は、利息制限法の上限を超えて出資法の上限内の金利に相当する部分の「払いすぎている金利」のことです。債務者は、過払い金が発生している場合には債権者にその返還を請求できます。全額払い戻されるかどうかは個別のケースで異なりますが、場合によってはそれなりの規模の金額を支払ってもらえますし、仮に借金そのものが返済中であれば元金に充当してもらうことで返済期間を短くできます。
■過払い金返還請求には10年の時効がある
しかし、過払い金があるであろうと推測できている状態であっても、いつまでもそれを放置しているわけにはいかないのです。過払い金返還請求は、10年が経過すると「時効」によってその請求権が消滅してしまうのです。
時効とは、法的な権利義務関係について、法律で定める期間が経過した場合にはその法律上の権利関係を現在の状態に変更することです。借金などの請求権は「消滅時効」により、その請求権が一定期間の経過によって消滅します。過払い金返還請求に関する権利もこれに分類され、10年の時効が定められています。
過払い金返還請求の時効である10年の起算点は、その過払い金の発生した借金の完済日です。つまり、いくら過払い金が発生していても、返済が完了してから既に10年以上が経過している場合は、返還請求権の消滅時効が完成し、1円もお金が戻ってくることはないということになります。
■2017年が「過払い金ブーム終了の年」と言われる理由は?
さて、この記事のタイトルにもありますが、多くのサイトで「2017年と言う年は過払い金請求のブーム終了の年」のように表現しています。なぜ、過払い金請求のブームがこの年になって終了になるのか、それは先程説明した「グレーゾーン金利」と「10年の時効」が関係しています。
前述の通り、グレーゾーン金利により支払っていた過払いの金利については、関西から0年以内であれば債権者にその返還を請求することができます。逆に言えば、そのどちらかの条件が合わない場合だと、過払い金請求はできないということになります。要するに、グレーゾーン金利で返済していない、もしくは完済から10年が経過している場合です。
さて、グレーゾーン金利での融資について、法改正が行われたのは2007年頃、実際に多くの消費者金融が2007年の夏~冬にかけて金利の引き下げを行っています。つまり、2008年以降に消費者金融からお金を借りた人が、その契約の下で利息制限法を超えた金利を支払っているはずがないのです。つまり、金利引下げ後に融資を受けることになる2008年以降にお金を借りた人は、過払い金請求をしても過払い金は発生していない可能性が極めて高いのです。
つまり、過払い金請求をできる人は「2007年以前に消費者金融からお金を借りた人」ということになります。ちなみに、消費者金融ではなく銀行の個人向け融資の場合はそれ以前から利息制限法の上限金利内で融資を行っていたので、グレーゾーン金利での融資は行っていません。
ただし、消滅時効の完成はあくまでも「完済から10年」であり、過払い金が発生している借金の完済日がいつになるかで時効完成のタイミングも異なります。ですが、2008年以降に借り入れをしている人は過払い金が存在せず、過払い金の請求が可能であろうと推測できるのは2007年以前の借り入れをした人が対象になります。
そのため、2017年を境に過払い金返還請求に関する行動も一応の沈静化を見せるということになります。言い方を変えれば、過払い金返還請求を弁護士などの専門家に相談・依頼する件数も激減するということになります。なぜなら、2008年以降の借り入れに過払い金は存在せず、2007年以前の借り入れは数に限りがあります。そのため、それを解決していくと次第に過払い金を抱える債権者は減少し、加えて時効による自然消滅も加わります。
2017年を「過払い金ブームの終了」だと言うのは、むしろそうした問題を扱う専門家たちサイドの話になるかもしれません。覚えておくべきなのは、10年という時効の完成があくまでも「完済から」起算されるということであり、法改正された2007年ではないということです。
■平成29年5月の法改正
さて、そんな過払い金返還請求について、直近で法改正が行われています。平成29年5月26日の法改正成立により、過払い金返還請求の時効成立に関する規定が変わります。具体的な変更点については、個別のケースにおいて「債権者が債権を行使できると知った時から5年」および「権利行使が可能になった時から10年」の、いずれか早く到達するほうが消滅時効として適用されます。
ただし、改正民法の附則において、その改正の施行日より前に生じた債権については、改正前の状態の規定が適用されることになります。つまり、まだ改正民法が施工されていない現状においては、5年で時効が到来することはありません。従来の規定通り、完済から10年で時効、というルールが適用されます。
問題なのは、改正民法が適用された後になって時効起算がスタートする場合です。具体的なケースとしては、改正民法施行後に「過払い金が発生している借金」を返済し終えた場合です。この場合は、完済日から起算して5年で消滅時効が完成します。また、改正民法施行後に「取引履歴開示請求」した場合も、その時点から5年の消滅時効が適用される可能性があります(時効までの期間が短くなる可能性がある)。
■過払い金があると思ったらどうすれば良いのか?
既に多くの人が、過払い金を返還してもらい、未完済状態の借金を返し終えることができています。数多くのメディア広告でも過払い金返還請求についての情報が拡散されてることもあり、現時点で過払い金が残っているという人はそう多くないのだろうと推測します。ですが、あくまでも個別のケースであるため、今でも過払い金を返してもらえる権利を持ったままという人もいるかもしれません。
過払い金を返還してもらえる条件は、前述の通りグレーゾーン金利での返済を継続していた人で、完済から10年が経過していないことです。ですが、これを満たしていれば自動的に振り込んでもらえるというわけではありません。過払い金を返してもらいたければ「過払い金返還請求」を、債権者(元債権者)に対して行う必要があります。
大まかな流れとしては、取引履歴を取得してそれを基にして引直計算を行います。その結果を書面にまとめて、債権者に対して交渉を開始します。うまく和解できれば、その条件に従ってお金が支払われるという流れですが、交渉内容次第では裁判に発展するケースも珍しくありません。
過払い金返還請求は、個人で行うことは十分可能です。しかし、時に裁判に発展することもありますし、何より取引履歴の開示請求手続きから一連の行動には何かと手間がかかります。また、債権者としても個人で交渉に臨んでくる人に対しては強気に対応することも珍しくありません。
加えて、先ほど説明したとおり民法改正に伴い過払い金返還請求に関する時効についても事情が変化しています。元々、時効の起算点などについては当事者同時で争いが起こることも珍しくなく、法律の専門家である弁護士の意見を必要とする場面は多いです。
過去に完済した借金や、返済中の借金について「過払い金があるかもしれない」と思ったら、まずは弁護士や司法書士に相談してみてください。その後、必要だと判断したら専門家に依頼して、過払い金問題を解消することをお勧めします。
■最後に・・・
最も忘れてはいけない事は「2017年を過ぎたら過払い金は戻ってこない」という勘違いをしないことです。昨今の過払い金関連の広告の中には、それを誤認させる内容も多々見受けられます。実際には「完済から10年」ですが、法改正も無視できません。
過払い金が発生しているかもしれないと考えたら、すぐにでも弁護士や司法書士に相談しましょう。過払い金の有無だけでもまず把握して、時効が成立する前に返還請求を行うことをお勧めします。その際に相応の手間がかかりますので、専門家に任せるということも有効な手段であることを理解しておきましょう。